[スタッフインタビュー#1 翠さん]『翠ちゃんの歩み方』

[スタッフインタビュー#1 翠さん]『翠ちゃんの歩み方』

1166バックパッカーズのスタッフになり1ヶ月。そんな彼女の現在の仕事について、そしてゲストハウスのスタッフになるまでを聞きました。

(インタビュー日:2021年6月10日)

話し手<br>翠(みどり)さん
話し手
翠(みどり)さん

2000年生まれ。岩手県一関市出身。地元の高校を卒業後、北海道の大学に進学。1年生の夏に退学し岩手に戻る。その後ドラッグストアで勤務。自宅近くのお寺での場づくり活動や盛岡のゲストハウス「ととと−盛岡の泊まれるたまり場−」との出会いがあり、現在1166バックパッカーズのアルバイトスタッフ。

聞き手<br>菅田詩乃(すがたしの)
聞き手
菅田詩乃(すがたしの)

1987年生まれ。宮城県仙台市出身。2021年4月から岩手県奥州市在住。同年7月初旬まで“宿のスタッフにインタビューするヘルパー”として1166バックパッカーズに滞在。1166バックパッカーズヘルパー体験記をnoteで執筆中


そうじはとても気持ちいい

菅田詩乃(以下、菅田) 翠ちゃんと出会ってまだ5日目だけど、色々聞かせてください。

翠(以下、翠) まだというか、もうという感じがしますね。

菅田 翠ちゃんを見ていて気づいたのだけど、いつも窓の外のベンチに座っているよね。なぜだろう、なにか見ているの?

翠 何かを見ているわけではなく、日に当たりたいんです。直射日光は暑いけど、ちょうど影になっていてそれなりに温かくて。

菅田 わたしはあまり外のベンチに座ろうと思ったことがこの5日間なくて・・・外のほうが落ち着くのかな。

翠 そう言われれば何でだろう。午前中のそうじが終わった後にコーヒーを持って外に出たり自分のノートを持ってベンチで書くのが好きですね。

画像1
(ベンチに座り、おみやげの笹だんごを食べる翠ちゃん)

菅田 そうじ等の仕事中と、ベンチに座っている時の表情が全然違うよね。仕事中は緊張しているのかな。

翠 全然気づかなかった。意識していないです。午前中そうじは3時間くらいかけてやるので、結構大変なんです。でも、それが終わるとすごく気持ちいいんですよ。それで解放されるから表情に出るのかな。

菅田 そうじは大変だけど、もしかして結構好きなのでしょうか。

翠 好きではありますね。それに宿のオーナー飯室織絵さん(以下、織絵さん)がそうじをすごく大事にしているように感じます。仕事が始まったばかりの時、一緒にそうじをしたのですが細かい所・・・電気のボタンまで拭いていて。普通なのかもしれないけど、そんなところを大切にしたいと思ったんです。ここの宿のスタッフとして、そうじは丁寧に手を抜きたくないというのがあります。

菅田 実際に様子を見ていて、日々のそうじでソファの脚まで拭きそうじをするんだと思って驚いたもん。

翠 それは自分でも収拾がつかないというか、加減が分からないんです。ここまで拭いたらここもここも拭きたくなっちゃう。それで最終的に脚まで拭いちゃうんです。

菅田 目立たないところだからここは別にいいかってならないんだね。

翠 それはならないですね。やりたくなっちゃう。

すごくうれしい仕事

菅田 宿の仕事で楽しいなやりがいがあるなと思っていることはありますか。

翠 メルマガをやらせてもらえているのは、すごくうれしいです。宿に勤めて最初のミーティングの時に、今までずっと織絵さんが一人でメルマガを担当していたと知りました。それなのに勤めたばかりのわたしに任せてくれて、すごくうれしいなぁって。書くことが好きで、関われたらいいなと思って長野に来たので、まさかこんなに早く担当させてもらえるとは、という驚きもあってうれしいですね。

菅田 夜遅くまでメルマガを編集したり、何度も写真を撮り直しに善光寺付近に行ったりする姿を見ているので、きちんとやりたいのだなと、ちょっと心配しつつ感心しているよ。

翠 次回のメルマガが初めての担当なんです(2021年6月11日配信)。今までは織絵さんが自分一人で原稿を書いて写真も選んでいたのに、わたしがそれをやって織絵さんが添削するという現在の状況は、二度手間というか、かかる時間が2倍になってしまっているなと気になっています。初めは仕方ないのかもしれないけど、焦りというか、そこから抜けたいというか。メルマガを読んだ方が、それぞれの日常の中で少しでも宿のことを思い出してくれたり、行きたいなと思ってもらえるように、これから作っていきたいです。

画像2
(善光寺の提灯を撮影。周りがもう少し暗いほうが良いと、一時間ほど付近を散策し、再度撮り直した)

大学選び、興味のないことを好きになる努力

菅田 大学ではどんな勉強をしていたんでしょう。

翠 経済学部だったんです。

菅田 その大学は高校生の時ずっと行きたかったのかな。

翠 えーっと、まずわたし高校三年生になっても志望校が決まっていなくて。でもその前から教師にはなりたかったんです。大学に行くことの一番の目的は教員免許を取りに行くこと。だから大学進学希望でした。

菅田 社会の先生になりたかったんだ。

翠 一応そうですね。それで教育学部のある大学を色々調べていたんです。でも、結局行った経済学部は担任の先生に勧められたんですよね。「学校の先生になるために、みんな教育学部を卒業しているわけではない」と言われて。入学した大学でも教員免許が取得できるからどうか、高校からの推薦も出せると言われて。でもわたしはその大学自体に“うーん”というのがあって。

菅田 魅力的な学校じゃなかったんだ。

翠 経済とか経営は全然興味のある分野じゃなかったんですよね。でも浪人、私立っていう選択肢はなかったんです。国公立一本でしか大学に行けなくて、だから偏差値等のことを考えて、少しでも入れる確率の高いその大学を志望することにしたんです。

菅田 合格してどうだった?

翠 高校の職員室で合格発表を見せられて。受験番号あったね合格だねってなったんですけど、その時に全然うれしくなかったんですよ。なんなら行きたくないなぁとまで思いました。でもそんなこと言っても、他に入れるようなところもなさそうで。うれしくないなと思いながら何日も過ごしました。

菅田 そこからどのような気持ちで大学生になったんだろう。

翠 勉強内容に興味は持てなくても、学校の雰囲気もあるだろうし・・・とりあえず大学生になって、勉強を頑張ったら面白味が分かってくるかも、少しは夢中になれるかもしれないという感覚で。でも嫌いなことを頑張ることはできないから、まず好きにならなくちゃと思って。そのためにめちゃくちゃ真面目に授業も受けたし家でも勉強してたけど、結局好きにはなれなかった。

菅田 授業の内容に全然興味持てなかったんだね。

翠 何個か面白いなっていうのはあったんですけど。そのうちもともと学びたかった不登校について興味が移ってしまって、大学の授業に集中できなくなったんです。学校行ってもただ座ってノートに書くだけで頭に入らないし、家でも勉強しなくなったし・・・

画像3
(お気に入りのベンチに座らせてもらった。撮影:ももちゃん)

お寺での場づくり活動

菅田 ずっと家の中にいる期間を経て大学を中退し、岩手に戻ってきた後何をしていたのかな。

翠 戻ってきてドラッグストアで働き始めました。あとは自宅近くの、お寺での場づくり活動に参加していました。前から知っていた、お寺の和尚さんが、noteに自分のお子さんが不登校だっていうことを書いていたんです。それを読んで、「自分も大学に行けないという経験をしたので、お話ししたいです」と久しぶりに連絡を取ったんです。そうしたら、お寺での場づくり活動のことを教えてもらって参加するようになりました。

菅田 そのお寺での活動は、どんなものなのでしょう。

翠 和尚さんは人脈がとても広くて、あっちこっちに知り合いがいるんです。その“あっちこっち”の中で学校に行っていない子供たちとか、活動を知った子供たちが集まっていて。学校に行っていない人だけという決まりがあるわけではないですが、不登校でも参加しやすいように、平日の昼間に活動時間を設けていたりしました。

菅田 活動のプログラムはあったのでしょうか。

翠 そうですね、森で遊ぼうとか。寺内じゃなくて外の活動もありました。今の時期だと田植えやったりとか、山菜取りしたり。冬は雪遊びしたりとか。ごはんをみんなで作って食べることもあります。

菅田 活動を通してどんなことを感じましたか。

翠 日常あたりまえにあること、例えばあいさつや、みんなで楽しくご飯を食べることなどを、自分が「うれしい」って思えていることに気づけたんです。それがうれしいですね。

ゲストハウスとの出会い

菅田 ゲストハウスとの出会いはどんなものですか。

翠 2021年の2月なのですが、岩手でドラッグストアに勤めていて、ちょっと仕事に疲れたな、辞めたいかもという時でした。岩手県の県民割りを使って、盛岡のゲストハウス「ととと-盛岡の泊まれるたまり場-」にたまたま泊まりに行ってすごく楽しくて。

菅田 「ととと」には何をしにいったの?

翠 一番の目的は人としゃべりたかったんです。盛岡の観光がしたかったわけではないのですが、休みのタイミングが合ったし、前から行きたかった宿だから行こうって。泊まって、本当に楽しかった余韻のまま、なんとなくSNSで“#ゲストハウス”で色々な投稿見ていたら、1166バックパッカーズの求人にたどり着いたんです。

菅田 採用になってうれしかったかな。

翠 めっちゃうれしかったです。わたし長野にもここの宿にも行ったことないし、だから条件的にダメかもしれないなぁって。でも、ダメだと思いたくなくて、でもダメだったらショックだから、「期待しないぞ」って頑張っていたんですよ。

これからやりたいこと

菅田 これから宿のスタッフとしてでも、自分個人としてでもやってみたいことがあれば教えてください。

翠 まだ確定じゃないんですけど、居場所のようなものを作りたいなって思っています。お寺の活動みたいに、色々な人と交流できるし、かつ、ひとりでいても良いっていうような。自分が学校に行けなかった時に、家しか居場所がなかったんですけど、居心地悪いし、だからといって他に行ける場所もなかったから、家と学校や職場以外の居場所になるところを作りたいなって思います。

菅田 居場所の作り方を学ぶのに、ここの宿はぴったりだよね。

翠 そうですね、交流もあるしひとりで本を読んで静かな時間を過ごしてもいいし。そこが頭に浮かんでいる場づくりと似ているポイントだと思います。

菅田 これからやりたいこと、できそうなこともいっぱいあるし、それを通して気づきもたくさんありそう。楽しみだね。

翠 そうですね。ありがとうございます。

画像4
(ちょっと困ったように、恥ずかしそうに、でも笑顔でインタビューに答えてくれた翠ちゃん。彼女の言葉を奪わず、出てくるのを待つように気をつけた菅田。)