立ち返るということ
できることならば、長く長く続けたい。自分の宿のことをそう思っている。開業前は「宿を始める」というところにあったゴールだったが、初めてみてわかったのは、そこは単なるスタートラインだった。今、自分はどこにあるかわからないゴールに向かって、走ったり、ときに歩いたり、止まったりしている。そしてその時々で、伴走してくれるスタッフやゲストが代わり、また止まらずとも道端でエールを送ってくれる遠く離れた知り合いや近所の友だちがいる。
「続ける」というのは持久戦で、立ちはだかる壁をよじ登らなければいけない瞬間が多々ある。今までの10年を振り返ってみれば、まず東日本大震災の時だったのかもしれない。そして、自分の結婚、出産もある意味では岐路だった。女性にとっては仕事をしながら両立するというのは、やはり難しい局面がある。
そうはいっても、長く個人事業で仕事を続けている人たちは山ほどいる。そういう人たちこそ、多くの壁をよじ登り、時に爆走したり歩いたり、止まったりしてきたはずだ。
そう考えたときに、かなり時間を要してから浮かんだ顔があった。それは両親。飯室の両親は「糸あやつり人形劇団みのむし」という名前で活動し、兄二人と私を育てた。一番上の兄はフランスへ留学し、もう一人の兄と私は私立の大学へ行かせてもらい、何不自由なく今に至る。個人事業主はどうして壁を乗り越えてえいるのだろうと考えたけれど、見本は自分のとても近しいところにいたのかもしれない。
まだまだ頭のなかでは答えは出ていないけれど、世間の波の最前線でニーズを掘り起こし新しいことに挑戦してゆくのではなく、今までのことを一層丁寧にやってゆく、それが自分には向いているのかな、なんて思った。
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