旅の香り

 西日本のとあるゲストハウスが廃業を決めたとSNSで流れてきた。最後に泊まったのは6年か7年か前だったと思う。当時の思い出だから今と異なる部分はありそうだけれども、私の頭のなかのその宿は、ビビッドな色彩の館内、旅の香りを背負ったままの異国のバックパッカーたちがビーサンで歩き、壁は他館のフライヤーが雑多に並び、廊下の壁には大きな絵が書かれていた。混沌とした空気だった。その混沌とした空気が心地よく、どっぷりと浸かりたくなるものだった。

 数年たち、気付けば今は、相部屋を有する宿の主体は、ホステル型が主流。シュッとした、シンプルで整った内装。各ベッドにあるのは絡まったこ延長コードではなく、USBポートがあらかじめ壁に埋め込まれていたり、風呂場にはいい香りのしそうなシャンプーが常備されている。カプセル型のベッドは隣のひとの気配を感じさせず、プライベートが守られる。そういう居心地の良い宿がデフォルトになってきた。

 その過渡期を徐々に超えてゆくことであまり変化を感じていなかったけれど、よくよく考えると、そう、旅の香りがする宿というのは、減ったのだと思う。それは1166バックパッカーズも含めて。どっちがいい、悪いの話ではなくて。 

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