宿屋以前に、事業主になるということ

 宿屋になろうと思ったのは、20代も終盤の頃だったと思う。学生時代に遊園地、プール、水族館などでアルバイトし、ワーホリビザで渡航したカナダでツアーガイドを経験し、ワークビザも出してもらった。その後はオーストラリアで編集業をかじって帰国。日本での初めての就職は当時創業80余年の旅館だった。

 旅館の面接のとき、「2年で辞めたいです」と生意気なことを社長に言ったのを覚えている。その頃からぼんやりと、自分で何かを始めたいと思っていた。旅館で働くうちに宿業が具体的に見えてきて、まぁいろいろあって3年半ほど居させてもらい、退職。思いがけず退職して5ヶ月足らずで自分の宿を開業した。

 旅館で3年半勤めたので、宿屋の仕事は大まかにわかっていた。公式サイトや予約サイトで情報発信をし(当時はSNSというのはあまり頭になかった)、予約の処理をし宿泊客を受け入れ、チェックアウトされたら掃除をする。ざっくり言うとそういうイメージだった。そのベーシックな部分にいかに宿の色を加えられるか。海外のゲストにとって必要な案内とは? ひとり旅は何を喜ぶ? 地域とうまく関係性を築くには? そういったものがうまく回れば、宿屋としてやって行けると思っていた。

 ところが、数年やってゆくうちに、宿屋である前に事業主だということに否が応でも気づくことになった。まず確定申告。白色?青色?貸方、借方? 控除ってどういう意味?ゲンカショウキャクって??(正直言うと、11年経った今でさえ、申告書類に知らない単語は多い。)そして、税金問題。住民税はなんとなくわかるけれど、所得税?事業税?次に雇用問題。給料はわかりますよ。え、天引きって何を?スタッフの住民税をなんで立て替えるの??労働保険って何を指すの?就業規則って何?サブロクキョウテイ…?? 消費税の壁も厚い。

 そう。宿屋の前に、事業主になる勉強が必要だった。ここは盲点。ただ、これを開業前に学び出したところで実践ではないので覚えられなかったと思うし、そこで熱量を奪われ開業を諦めていたかもしれないので、まぁ、今となってはこれでよかったのかもしれない。

 ハローワークから電話があり、スタッフの就業規則の提出を求められた。あぁ、そうですね、ありますよ…。こうして労務問題は、コロナ禍でまた一歩整えられて行くのだと思う。

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